■■時計の真の魅力■■

◆橋本時計店◆

橋本一弥


先日、世界一の時計ショー「バーゼルフェア」を取り上げたNHKの番組を見ました。

「独立時計職人」と呼ばれる時計師が、一人で世界にたった一個の腕時計を作る

一部始終を取材したものです。一つは0.5ミリのダイヤ粒を数千個散りばめた時計

そしてもう一つはネジ一本、歯車の歯一枚づつ全て手作りされた、でも見た目何の

変哲も無いスモールセコンドの三針手巻き腕時計です。それぞれに時計が顕微鏡

倍率の鮮明画像で映し出され、息を呑むどころか、息が出来なくなるほど緊張する

瞬間ばかりでした。時計を見慣れた私でもそうですから日本中のテレビが硬直した

はずです。そしてため息が止まらなかったと想像します。何しろ価格は数百万から

数千万円。世界に一個しかない1/1の刻印が打ち込まれた作品なのですから。

 

しかし、終始一貫、私は不満でした。番組の何時間かを「眉間にしわ」で過ごしました。

それは違う。時計はもっともっと美しい。どうして分かってくれないのか、私の心は叫び、

鳴り止まなかったのです。時を刻むロマンスこそが、真の美しさになる。時と一体化した

時計。それはすなわち、パーツの持つ美しさだけで時計を表わすことです。歯車達ネジ

軸受け、そしてゼンマイなどの最小限の部品だけで、その魅力を出し切った時、初めて

真に美しい時計が生み出されるのです。かつて、腕時計以前、懐中時計を作った先輩

時計師の方々は感じていました。なのに、今、人々はその感動を忘れているのです。

 

(つづく)


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20150221